2014年4月

1. シンガポールの食事情

シンガポールは、アジア有数の豊かな国であり、GDPは、2,765億USドル(2012年)ですが、国民1人当たりのGDPは5万2,051USドルとなっており、日本における国民1人当たりのGDP(4万6,735USドル)を上回っています。年間可処分所得は3万USドル超であり、世帯ベースの収入は、共働きの世帯が多いとはいえ、月収1万Sドル(日本円で約80万円)以上という世帯が人口の30%を占めています。このことからも、購買力が高いことが伺え、外食率も高いという傾向があります。

シンガポールの人種構成比は、中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他4%となっており、様々な宗教の人々が各々の文化を守りつつ共存しているため、食文化や食生活もその影響をうけています。敬虔なイスラム教徒は、飲酒の習慣がありません。また、シンガポール人は日本人に比べて、外でアルコール飲料を沢山飲む習慣がありません。しかし、日本酒の知名度は年々上昇しており、様々な人々が日本酒を楽しんでいる光景が見られます。

日系食品関係企業を対称にしたアンケートによると、シンガポール人の好む味覚は、「味付けが濃いもの、スパイしーなもの、甘いもの」を好み、また商品の包装やデザインにも関心が強いということがわかりました。

どんなところで日本酒は飲まれているの?

シンガポールは、イタリアン、フレンチ、スパニッシュ、インド、エスニック、中華、和食など、様々な国の料理を美味しく食べることが出来る国です。その中で、日本酒を飲めるのは、和食(ラーメン店を含む)レストランが主ですが、中には、フレンチ、イタリアン、中華のレストランでも提供しているところがあります。それぞれの料理に合わせて、フレンチ・イタリアンには爽酒タイプが人気で、中華では爽酒と醇酒の中間タイプなども好まれているようです。


和食店の人気メニュー(SUJU Japanese Restaurant)

シンガポールの和食レストランとはどんなところ?

2009年以降、日本食レストランの進出は加速しており、現在では日本食の飲食店は900軒ほど存在しています。それらは、最高級和食(1人当たりの予算S$500〜=5万円前後)高級和食(S$300=2〜3万円)和食専門店(S$100前後=〜1万円)ジャパニーズ(S$50=5千円以下)の4つのカテゴリーに分類できます。ジャパニーズとは、ファミレス風の店舗設計で、現地でアレンジされたメニューが多く、ローカルの若い世代に人気があります。高級和食店や特定専門店は主に日本人とシンガポールの富裕層がメインターゲットとなっています。


人気の和食レストランの店内(Japanese Dining Ooi)

2. 日本酒は高級品!ちょっと一杯が1,500円?!

シンガポールで日本酒を飲むには、スーパーで購入するか、飲食店で飲むかの2通りがあります。日本酒は、日系のスーパーのみならず、地元のスーパーでも購入することができますが、どちらも購入者は圧倒的にローカルの人が多いそうです。ちなみに、日本人は日本酒よりビールや焼酎の購入率が高いです。


スーパーにおける日本酒の品揃え

シンガポールでの日本酒のお値段は?(スーパーでの小売価格)

スーパーでの販売価格は、日本のメーカー希望小売価格の約2.5~3倍。
ただし、銘柄によっても、取り扱い店舗によっても違いがあります。
例:朝日酒造「久保田萬寿」¥3,822がS$118≒¥9,450 「久保田千寿」¥1,134がS$55≒¥4,400 (2014.3調査時点)

飲食店での日本酒のお値段は?

飲食店で、日本酒をオーダーする際は、ワインのようにボトル(720ml)で注文することが主流となっています。日本のように、グラスや片口(カラフ)でオーダーできるところは少なく、注文できる銘柄も多くありません。

飲食店での価格

ボトル(720ml)は、シンガポールでのスーパーの小売価格の約2倍
(例:「久保田萬寿」を飲食店で注文すると、約2万円近い金額になる。)

飲食店が提供する日本酒の金額は、S$70〜250くらいまでが一般的。中にはS$600を超える日本酒を提供する店もあります。

・グラス(約150ml〜180ml)は、S$15~30 (参考価格:生ビール一杯S$10~15 )
(例:「久保田千寿」S$19≒¥1,520、「獺祭50純米大吟醸」S$27≒¥2,160 (2013.12調査時点) )

また、飲食店の中には、持ち込み料を支払えば、自分の好きなアルコールを持ち込めるところもあります。

・持ち込み料:1本(720ml)あたりS$30〜70程度 (店舗、アルコールの種類によって異なる)

3. シンガポールでは「大吟醸」が注目の的

日本食ブームに伴い、日本産清酒の輸入量は2008年頃まで急成長し、その後横ばいに推移しています。2008年までの急成長の要因は、2000年初頭からの経済成長により国民の所得レベルが向上し、国内の日本食レストランや日本へ観光旅行するシンガポール人が増加し、日本食やそれに合わせる清酒への認知度が上がり、人気も上昇したと考えられます。さらに、輸入額は増加傾向にあり、その要因は、高価な清酒の輸入が増加したことにあると思われます。

また、ローカルの人も日本酒についての知識があり、純米大吟醸、純米吟醸、大吟醸あたりに人気が集中しています。 しかし、シンガポールで唎酒師の資格をもって活躍している方に聞いたところ、本醸造酒はアルコール添加をしているので好まないというローカルにも、本醸造酒の良さや料理との相性などを説明すれば、美味しく飲んで満足していただけるとのことでした。このことからも、きちんと日本酒の説明ができることの重要性がわかります。


日本酒を好むローカルの若者達

シンガポールでの人気銘柄は?(自家使用・贈答用)

シンガポール人は、日本で流行している銘柄を参考にして購入銘柄を選択する傾向があり、「久保田」「八海山」「獺祭」などが人気となっています。

「久保田」や「八海山」はスーパーでも購入できるため、ローカルの人がスーパーで購入する人気銘柄の上位となっています。他にも「南部美人」や「上善如水」など、日本でも知名度があるブランドは売れ筋とのことです。さらに、最近ではスパークリング日本酒やリキュールの人気も上昇しており、今年の旧正月前後には、「澪」や梅酒などのリキュール各種がよく売れたようです。

飲食店での人気銘柄は?(自家使用・贈答用)

飲食店でも上記の3銘柄を置いている店が多く、「獺祭」は日本人、ローカルともに人気が高い銘柄となっています。しかし、高級和食店においては、顧客が現地の富裕層が多いため、日本においても高価でレアな酒(精米歩合が低い、特殊な製法、稀少・限定販売など)が好まれる傾向にあります。

4. シンガポールにおける日本酒の未来は?

現在日本食の市場には、追い風が吹いているように見受けられ、シンガポールには既に多くの和食の飲食店が出店し、成功している企業は2号店3号店を出していますが、シンガポールの人々の外食率が高いといっても、サービス料とTAXの関係から、高級店での外食頻度がそんなに高い訳ではありません。この状況は、日本食の価格が高価であることがブランド価値を形成しているとともに、富裕層以外の消費の伸び悩みを生み出しているともいえるでしょう。

さらに、シンガポールでは、清酒、焼酎ともに、家庭より日本食の飲食店で消費される傾向が強いので、清酒はかなり高級な嗜好品となっており、現在では富裕層以外の急激な消費の上昇が望めない状態にあります。このまま供給が過剰になった場合、すべての日本食の飲食店や、メーカーが成功する事は難しくなるため、価格競争や差別化が今以上に重要となってくると推察されます。

<取材協力先>
季節料理 おゝ井 (Japanese Dining Ooi )
11 Cavenagh Road, #01-13/14 Holiday Inn Singapore Orchard City Centre Singapore 229616
TEL : +65 6737 4929
FAX : +65 6235 9079
折原商店(シンガポール店)(ORIHARA Singapore)
11 Unity Street #01-01/02 Robertson Walk Singapore 237995
TEL : +65 6836 5710
FAX : +65 6836 5720
http://sg.oriharashoten.jp
葵匠 Ki-sho
29 Scotts Road Singapore 228224
TEL : +65 6733 5251
FAX : +65 6733 6077
http://www.scotts29.com/ki-sho/
SUJU Japanese Restaurant
Mandarin Gallery #04-05 , 333A Ochard Road Singapore 238897
TEL : +65 6737 7764
他、飲食店多数、流通業者、小売業者(スーパー等)、消費者(ローカル)、JETROシンガポール

レポート:大津 稚子 (Wakako Otsu)
Gemological Institute of America New York 卒業 GIA G.G
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科卒業 MBA
宝石鑑定士、唎酒師、日本酒学講師、(SSIインターナショナル 理事)
嗜好品やこだわりの品に対する商品企画、プロモーション等のマーケティングが専門。
アクセサリー・宝飾業界で、販売・デザイン・企画等を担当する傍ら、夫(唎酒師)とともに飲み歩く日々を送る。昨年「国際唎酒師」のテキスト編纂に参加。
現在は、シンガポールにて日本酒のプロモーション支援を行っている。