2014年5月

1.親日家の多い台湾人

台湾は人口約2335万人(2013年8月現在)の国で、面積は日本酒の九州位。北半分が亜熱帯、南半分が熱帯地域となります。首都の台北市は1年中温暖でハッキリとした四季はなく、長い夏と短い冬があるのみです。98%を漢民族が占め(原住民族は約14族を数え、全人口の約2%)、宗教は仏教、道教、キリスト教などと多様です。通貨の台湾元は1元=約33円(2013年11月5日のレート)となります。ご存知のとおり、日本とは地理的にも近く、歴史的にも縁が深く、2013年度の日本から台湾への訪問者は143万人を超え、台湾からは234万人以上が日本を訪問しています。東京の羽田空港と台北の松山空港には毎日8便が往来し、成田空港はもちろんのこと、日本各地の地方空港と台湾桃園空港とが各チャーター便で繋がっています。日本と台湾との時差も1時間、言葉は判らなくても、そこはお互い漢字の国、字を読めばなんとなく意味は分かるし(分かるような気がする?)、風貌も似ている・・・そんなところが往来の多い理由と思われます。 また台湾に親日家が多いのは70年程前までは、日本が台湾を統治していたためと言われます。ご高齢の台湾人の中には、日本語にたけた人も数多くいらっしゃいます。「昭和三年生まれで、名前は昭三といいます」と言われたおじいさんには、なるほどと妙に納得してしまい、「昔はどこの家庭も子供が多かったから、3番目くらいからは適当に名前をつけていたんだよ」と、大声で笑っておられたのが印象的でした。こういったいわゆる日本語世代の代表格は、日本でも馴染みが深い李登輝前総統ではないでしょうか(この世代の人々は、月桂冠や大関といった日本でも名の知れた、大手の日本酒を飲まれていました。ワインやウィスキーよりも日本酒がよく飲まれていた、古きよき時代といえます)。

2.台湾人の食習慣

さて、一般的に台湾人は外食好きです。独身者はもちろんのこと、一般家庭でも頻繁に外食します。どこの町にも手軽なレストランがあり、比較的安価でおいしい料理を味わえ、どちらかというと甘口の味付けのものが多いのが特徴です。ひと昔前までは、朝はお粥か小ぶりの牡蠣や豚の小腸を混ぜた細い麺(おあみそ)を食べるのが普通でしたが、今ではサンドイッチやマクドナルドの朝食を好む人が増えてきました。

3.台湾人の酒の飲み方

まず台湾人の酒の飲み方は、日本人から見るとちょっと変わっていて、いわゆる食中酒という概念はほとんどありません。日本料理店にウィスキーを持ち込んで、いきなりストレートで飲み始めるといった光景も珍しくなく、また食後にお酒を飲み始めるのもよくあることです。

4.日本料理店の傾向

ラーメン店やカレーショップ、お好み焼き屋までを日本食レストランとして捉えると、台北市内だけでも800件程度は存在するといわれています(数え切れないほどという表現があたっているかもしれません)。最近は特に串焼き・焼き鳥系統のお店が増えており、讃岐うどん専門店、手打ち蕎麦専門店、カレー専門店、とんかつ専門店など、専門店化が進んでいます。以前は日本料理店と言うと、刺身、寿司と共に、とんかつ、蕎麦、カレーまで、メニューに揃えているケースが多かったのですが、台湾人が本物の日本食を求めているように思えます。

5.日本酒が飲まれているお店とは

さて、日本の酒(日本酒・焼酎・梅酒など)ですが、やはり日本料理店、居酒屋、焼肉屋といったお店で飲まれることが多くなります。中華料理系レストラン、西洋料理系レストランでは、ほとんど飲まれてなく、また自宅で晩酌といった風習もありません。外食時に好きなお酒を飲むのが台湾人の習慣なのです。 また、日本料理店は2パターン存在します。オーナーあるいは料理長が日本人で、日本と変わらない味を提供する店と、看板や料理メニューは日本風ですが、日本の料理とはちょっと異なる味わいを供する日式料理店が存在します(前者の単価は後者に比べて高額)。次に、外装、内装、雰囲気が日本とほとんど変わらないお店、中には日本よりも贅を凝らしたお店などが存在し人気を呼んでいます。このようなお店では日本人アルバイトや日本語のできる店員を配置したり、メニューにも日本語表記があったり、日本の衛星放送をリアルタイムで流していたりと、聞こえてくるのは日本語ばかりで、台湾にいることを一瞬忘れてしまいそうな位です。このようなお店の傾向としては「久保田」や「八海山」、「獺祭」といった有名かつ比較的大きな地酒蔵の商品が多いことです。近年は地方の小さな酒蔵の地酒も目につくようになってきたことと、若い女性の日本酒ファンが増えており、これは日本と同じといえましょう。現在、日本からの日本酒輸出量で台湾は第3位。年間約1600kl以上(一升瓶換算では約89万本)が台湾に輸出されていることになります(日本からの輸出額ではおよそ5億円台となります)。

6.活躍する「唎酒師」「日本酒学講師」

今の日本酒人気を高めた理由として、台湾で活躍する「唎酒師」「日本酒学講師」の存在が大きいと思われます。まず台北の歓楽街激戦地である林森中山エリアで、オシャレな居酒屋「HANABI」を経営するMichael Ou(欧子豪)氏は、料理人としてだけではなく「唎酒師」「日本酒学講師」として日本酒文化の普及に努められています。子供の頃は父親が飲む日本酒を、臭い嫌なものと感じていたそうですが、二十歳の頃、日本で料理の修業をしていた時、先輩から勧められて飲んだ一杯の地酒が日本酒に対する発起点となり、「HANABI」開業当時から、本格的な日本酒を揃えることになったそうです。Michael Ou(欧子豪)氏は、日本酒の勉強を積んで唎酒師の資格、更には日本酒学講師の資格まで取得されました。Michael Ou(欧子豪)氏は、日本酒は自分にとって歌みたいな存在だと言います。恋人と語るときには大吟醸、男同士で飲み明かすときには骨太の山廃純米といった具合だとか。将来は日本酒の教育を通じて、日本の酒文化を台湾に広めて行くのが目標とのことです。

HANABIオーナーであるMichael Ou(欧子豪)

HANABIの日本酒メニュー

HANABI外観

そごう百貨店や若者向け最先端の流行品を扱う店舗が多い台北東区エリアの一角で、Linda(陳宜君)氏は焼き鳥「手串本舗」を経営されています。Linda氏も台湾では「唎酒師」「日本酒学講師」の資格を持つ一人。台湾の高校を卒業してから日本の女子栄養大学に通われてました。その頃は日本酒ではなくワインを好まれていたようで、本格的に日本酒に興味を持ったのは「手串本舗」をオープンしてから。趣味が美味しいものを食べることと、美味しいお酒を飲むことで、同じ趣味のご主人と二人三脚で、日々焼き鳥と日本酒を広められています。また、最低2ヶ月に1回は「手串本舗」で日本酒の会を開催、3ヶ月に1回は従業員の教育酒講座を実施されています。これは顧客の第一線に立つ従業員が、顧客よりも日本酒の知識が劣っていれば売れる筈がないとの思いからだそうで、将来はお店をどんどん発展させ、「焼き鳥、日本酒といえば手串本舗」「手串本舗といえば焼き鳥、日本酒」と言われることが夢だそうです。

焼き鳥「手串本舗」オーナーLinda(陳宜君)氏

「手串本舗」の店構え

「手串本舗」で開催される日本酒の会風景

「獺祭」や「奥の松」といった銘酒の台湾総代理店である開元食品工業股份有限公司で、商品の発注や開発の推進を手がけるEmma Wang(王介芳)氏は、中学生の頃に東京で暮らした経験を持たれています。そのせいか日本文化に色々と影響されたそうです。ずっと日本関連の仕事をしてきたのも、ただ日本語ができるという理由だけではないと言われます。特に、その土地で取れた米、その土地に湧き出す水、そしてその土地に暮らす人々が醸し、その土地に暮らす人たちが飲む日本酒は、日本人の文化が一番含まれている商品だと考えられているそうです。またEmma Wang(王介芳)氏は、人とコミュニケーションを計ることが大好きであり、これからもっと色々な人達に、日本酒を知って貰い、台湾と日本の文化の架け橋になりたいと言われます(そのために「唎酒師」「日本酒学講師」の資格を取得されました)。

自社の試飲会で日本酒セミナーを担当するEmma Wang(王介芳)氏

最後に、台湾で日本酒の普及拡大に貢献された人物として呉裕隆氏をご紹介します。呉氏は第2回「世界きき酒師コンクール」の準優勝者で、現在はSSIインターナショナルの顧問として活躍されています(去年は第12回名誉きき酒師酒匠にも叙任されました)。台湾における「唎酒師」のパイオニア的存在である氏は、今年3月の台湾における国際唎酒師試験の試験官を務めるなど、重要なポジションにて活躍されています。

中央が呉裕隆氏(右が筆者)

7.日本食レストランにおける料理の価格帯

日本食レストランは前述の通り、本格的日本料理店と日式料理店に大きく区別されますが、料理やお酒の価格は本格的日本料理店のほうが高価で、日式料理店の方が安価になります。例えばディナーの価格で比較すると、一人あたり超高級店3,500~4,000台湾元(10,500~12,000円)、一般的な日本料理店1,500~3,000台湾元(4,500~9,000円)、日式料理店800~2,000台湾元(2,400~6,000円)といった所でしょうか(いずれも酒類代金を含まず。ちなみにカツ丼や親子丼などは100台湾元(300円程度)前後。高級店ではこれらはオンメニューされていません。ちらし寿司などは双方で提供されていますが高級店は800台湾元前後、日式料理店では250台湾元前後となります)。

8.日本食レストランにおける日本酒のラインナップと価格帯

本格的日本料理店と日式料理店は、お店の見た目は同じでも、提供する価格や料理内容は異なります。またお酒の飲み方も異なり、本格的日本料理店では「吟醸酒」や「大吟醸酒」、それも日本でも有名な「久保田」「八海山」「獺祭」それに「梵」「十四代」「黒龍」といったブランドの人気が高いです。これらは日本と同じように、冷蔵庫で温度管理され、冷酒状態で提供されます(最近は冬場でも冷酒の人気が落ちません)。次に人気なのが「本醸造酒」系統で、高級店ではお燗にして出すところが多いようです。「普通酒」は日式料理店ではハウス酒として使われています(高級店では料理酒として主に使用)。また純米酒系統は価格的が中途半端となるせいか、あまり出ていないようです。 日式料理店で提供される日本は、月桂冠や大関、白鶴、白鹿といった大手メーカー産が主流となります。それもお燗で供されることが多く、手で持てないほどに熱くする場合がほとんどで、とても美味しいとは言えません。ウィスキーや高粱酒が出るのも日式料理店の特徴ですが、これらは持込みが多く、台北では200~500台湾元の持ち込み料金を取るのが一般的です。持ち込み料の徴収には、台北と台中や高雄といった中、南部の都市とでは違いがあり、台北は外国人も多く、持ち込み料を徴収するケースが多く、台中や高雄では徴収されないことが多いようです。もちろん店の方針によっても違いますが、一般的に蒸留酒は、氷やミネラルウォーターを提供するため、その分持ち込み料も高めに設定されるようです。

9.高関税が障壁!日本の定価の2倍以上する高級嗜好品!

台湾でお酒を飲もうと思えば、販売店で買って飲むか、居酒屋等の飲食店で飲むかになりますが、酒類の販売チャンネルとしては、スーパーマーケットや一部の酒販店、ハイパーマート、レストランということになります。これらの販売チャンネルで大吟醸酒を買うのは現地のお金持ち。在住日本人の多くは焼酎の購入が多いようです(特に芋焼酎を購入するのはほとんど日本人。台湾人は芋焼酎よりも、ライトタイプの麦焼酎を好み、その代表格が大分の麦焼酎「いいちこ」でしょうか)。台湾のスーパーマーケットや酒販店における小売価格は、日本の小売定価の2倍以上または3倍ほどになります。小売価格例として朝日酒造「久保田萬寿」720MLが3,600台湾元(10,800円)、同久保田千寿720MLが1,000台湾元(3,000円)、八海山純米吟醸720MLが1,600台湾元(4,800円)といったところです。台湾のGDPが日本の3分の1であることを考えると高額商品と言えるでしょう。レストランでの販売価格例としては、「久保田萬寿」720MLで4,000~4,800台湾元(12,000~14,400円)、久保田千寿720MLが1,400~1,600台湾元(4,200~4,800円)、八海山純米吟醸720MLが1,800~2,200台湾元(5,400~6,600円)。またレストランでは回転率や保存の難しさを考えて、一杯売りをしているところは少ないです。特に大吟醸や純米吟醸といった高額な清酒はボトル売りが普通です。そのためか300MLの小瓶を揃えているところが多く見受けられます。徳利で一合或いは二合売りしているのはお燗用の本醸造、通常は普通酒になります。

CITY SUPER内の日本酒陳列例

CITY SUPER内のプライスカード例

10.今、台湾でもちょっとした日本酒ブーム

私は2004年に台湾がWTOに加盟して、それまでの日本酒の関税240%から43%になったときから、日本酒を扱ってきました。その当時は日本料理店や居酒屋を経営している人でさえ、日本では有名な地酒でも、台湾では知っている人が少なくて大変苦労しました。それに比べて今は一般の消費者でさえ、日本酒や焼酎のことをよく知っていると思います。これもインターネットの発達の恩恵でしょうか。日本酒マニアを何人も見かけます。ちょっと話をしてもその知識の深さに驚かされます。日本語を話せない人でもそうですから、日本語が分かる人は尚更です。蔵元さんをお呼びして大型の試飲会を開催すると、あっという間に500~600人くらいは集まります。特に若い人たちの参加が目立ちます。試飲会で話をして気がつくことが「夏子の酒」を読んだことがある人が多いことです。もう20年ほど前の漫画ですが、台湾ではDVDも販売され、お酒に興味がない人にも評価されています。そのため幻の酒米といわれた「亀の尾」は、お酒を飲ま ない人でも知っています。最近亀の尾で醸したお酒を扱うようになって、特にそう感じることが多くなりました。そのほかにも、やっぱり山田錦が一番だとか、美山錦で造った酒が好きだ、五百万石もなかなかいいといった会話を台湾の人たち同士で交わしていたりもします。

台北で開催される日本酒試飲会の様子

11.台湾における日本酒のこれから

台湾は日本食がブームであり、日本からいろいろな形態の和食レストランが進出しています。多くはすでに数十あるいは数百店舗のチェーン店を持つ中堅、大手の会社ですが、これらが台湾人に受け入れられると、日本酒の消費は更に拡大すると思われます。しかしながら、高関税(40%)、高酒税という足かせもあり、誰でもがリーズナブルな日本酒の恩恵に与れる日は、まだまだ遠いと言わざるを得ません。一部のお金持ちしか買えない状況では、真の日本酒市場拡大はありえないと思います。これからさほど遠くない将来、酒類の関税が引き下げられたとき、本当の意味での日本酒が発展するでしょうが、そうなると市場が激戦化し、蔵元、流通業者、食店、小売店が、今以上に切磋琢磨しなければ生き残っていけない過酷な状況となるでしょう。

<参考文献>
・地球の歩き方2014~15 (ダイヤモンド社、ダイヤモンド・ビッグ社)
・日本酒輸出ハンドブック~台湾編~ (日本貿易振興機構 農林水産・食品部、国税庁 酒税課)

<取材協力先>
居酒屋「HANABI」
台北市中山北路二段20巷1-3號
TEL : 02-2511-9358
営業時間:11:30~14:00、18:00~23:00
焼き鳥・串焼き「手串本舗」
台北市仁愛路四段8巷20號
TEL : 02 2705 2892
営業時間:11:30~13:30、18:00~24:00
開元食品工業股份有限公司
台北市內湖區民善街83號7樓
TEL : 886-2-8791-2288

レポート:前園富士男
福岡市出身の九州男児。明治大学卒業後、台北在住。祖父と父が戦前台湾に住んでいたという、小さな頃に聞いた話を思い出して、ひょんなことから台湾に来て住み始め、台湾生活はすでに26年目に突入。現在はCity super Taiwan Ltd.という香港資本系の会社で日本酒類のバイヤー、営業マネージャーを担当して12年。「唎酒師」「日本酒学講師」を取得し、台湾生まれの双子の息子達に、お父さんの中国語は訛っていると言われても、微力ながら台湾の人々に、日々中国語で日本酒文化を発信中。